このほど,当研究所で ちびPC II という小型のPCを購入してみましたのでご紹介します.
「ちびPC II」とは,V-CLUB町田がプロデュースするEthernet(LAN)ポート2個搭載の小型ファンレスPCです.開発・製造は台湾Evalue Technologyという企業が行っているもので型番はEES-3610です.一世代前の製品としてはEES-3412が有名です.
EES-3610は,秋葉原では専ら某社がMicro PCとしてプロデュースしているものが有名ですが,どちらも同じものです.
我らがV-CLUB町田プロデュースの ちびPC II は諸般の事情により発売直前になってWeb上から商品説明およびテクニカルな情報を消さざるを得なくなってしまったようですが,販売自体は引き続き行っているようです.価格も 2003/4/8 現在 \51,800- と某社プロデュースのものよりちょっと安めでした.(しかも初回分は PC133 256MB メモリのオマケ付きでした.)
主なスペックは次の通りです.
CPU | Eden ESP6000 667MHz (VIA CyrixIII:Samuel2系,そしてファンレス) |
チップセット | VIA TwisterT VT8606 / VT82C686B (いわゆる統合型チップセット) |
ビデオ | VIA VT8606(Savage4系,チップセットに内蔵)
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サウンド | VIA TV82686B(チップセットに内蔵)
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メモリ | 別売り(SO-DIMM 1スロット,512MBまで装着可,PC133以上対応) |
HDD | 別売り(9.5mm厚,2.5インチを一台装着可) ※ UltraDMA66は,BIOSは対応しているが付属ケーブルが40芯なためUltraDMA33モードまででしか使えない. |
Ethernet | (カニさんマークの)Realtek 8139Cによる100Base-TXポート2個 |
拡張スロット | CompactFlash(CF)スロット1個装備(TypeI,IIメモリカードのみ) ※ BIOSにより,OSにはSecondary Master HDDとして見えるようになっており,ブートも可能.(事実上のブートフロッピー&ブータブルCD代わり) |
その他I/Oポート | USB 1.0ポートx2,シリアルポートx2,パラレルポートx1,PS/2キーボード・マウス複合ポートx1 |
消費電力 | 最大29W |
買ったばかり(といってもOSやら何やらを入れて一通り遊んだ後)の ちびPC II のお姿(フィギュア)を紹介します.
前作(EES-3412)に比べてデザインもカッコイィと思いますがどうですか? 前面に光る青色LEDが眩しいっ! いゃ…これ,結構高輝度で真正面から見ると本当に眩しいんです.夜の真っ暗な部屋を青く照らします.
ファンレスということで音も静か,たまにハードディスクのシーク音が聞こえる程度です.それだけ消費電力が低いってことですね.エコアイスでおなじみのアイスちゃんも両手を上げて喜んでいます.
「低消費電力でとっても経済的!地球にもやさしいのよ!」
今度は後ろから眺めてみます.(アイスちゃんは帰りました)
ファンレスなのでもちろん排気口はありません.(側面に放熱口は少しありますけど…)
背面には各種I/Oポートが集結しています.さらにHDDのアクセスランプとEthernetのLinkランプとアクセスランプもあります.んー,ランプは正面にあるとよかったかな….正面といえば…正面のパワーランプは高輝度なのでほら,柱に光が反射しています.
電源は内蔵ではなくACアダプター(写真左側)をつなぐようになっています.
ちなみにかなり無理して後ろを向かせたため,Ethernetケーブルのプラグ(RJ-45)のツメが折れちゃいました.Ethernetポート#2の上に置いてある物体がそれだったりします.
シャットダウンして真後ろをじっくり眺めます….
ちょっとブレてしまいましたが左上から順に,シリアル#1,アナログRGB,リセットボタン(小さい),PS/2キーボード&マウス,LAN#1,LAN#2,電源入力,電源スイッチ.左に戻って,上の段と下の段の間にはコンパクトフラッシュのスロットがあります.下の段へ移って左から,シリアル#2,パラレル,USB#1,USB#2,サウンド(Line-out,Line-in,MIC)となっています.
電源が単純なスイッチになっているため,ソフトウェアからの電源オフはできません.BIOS自体はACPIにまで対応しているのですが….そのためBIOS設定ではACPIをDisableにしておく方がよいようです.
コネクタパネルの上,一番上の青いアルミ版の下は巨大なヒートシンクになっていて,中のCPUやチップセットから上ってきた熱を逃がすようになっています.そーいえばこのPCに搭載されているEdenというCPUって確か,ファンを付ければさらに高クロックでの動作が保証されていたような気がしますが,青いアルミ板を外してここにファンを載せることで冷却性能を上げたらさらに高クロックでも安定して動くのかな? BIOSではFSBは最大150MHz,倍率は最大16倍に設定できるので 2.4GHzも可能!? …いゃ,でもそれじゃもはやファンレスPCのじゃなくなるので,処理能力は上がっても魅力は激減ですね.
最後におやくそくの「脱いでもスゴいんです」写真を…
脱がせるには最低限4箇所のネジ(写真左下の黒いもの)を外す必要があります.さらに基板を取り出す(メモリ,HDD装着のためには必要)には,基板上のネジの他にシリアル#1とRGBコネクタのネジ(やはり写真左下)も外す必要があります.こちらはドライバではなく六角レンチ(ラジオペンチでもできなくはないですけど)が必要です.
基板中央に聳え立つ2本の柱は,その下にあるCPUとチップセットからの熱を吸い上げるもので,フタを閉めるとその上にあるヒートシンクに伝わる仕組みになっています.フタの裏側にちょうどピッタリ宛がうための窓がありますね.
写真の中央からやや右にはIDEケーブルがありますが,よく見ると1回ねじれています. このねじれがフタを閉めるときにちょっと邪魔で,設計ミスのように思えてなりません.基板の都合でこういう向きにしたのならHDDマウンターの装着向きを上下逆さまにするようしてもらえればなぁと思います.
IDEケーブルの先を見るとわかるようにHDDは基板の下側にマウントするようになっており,少し見えます.一方メモリは完全に裏側に隠れていて見えません.
Realtek版購入後,Intel版も注文して入手しちゃいました.これでスループット対決ができますね.というわけで,戦友のツーショットです.
Ethernetポートの2ついているこのオモチャ.当研究所での活用法といえば言うまでもなくリッチなサーバー(しつこいようですがオールインワンなルータ兼サーバーのこと)でしょ! リッチなサーバーとして具体的に何をやっているかについては,(これから増えていくであろう…)本編に譲るとして,ここではその実力を測ってみたいと思います.
といっても,Eden搭載PCをここみたいにフツーのベンチマークを行ってフツーのPCと優劣を比較するのはかわいそうというものです.飽くまでファンレスPCなんですから.
Ethernetポートがわざわざ2つついているあたり,ルータとしての用途を使い方の一つとして想定しているとしか思えません.ファンレスでポート2個といったらPCなどと比べるのではなく市販のブロードバンドルータあたりとスループットを比較するほうが妥当ですよね.というわけでいくつかの条件でスループットを測定(していく予定)です.
まずはお手軽な実験として,Webサーバーに仕立て上げた ちびPCII から巨大なファイルをダウンロードしてみます.
次の構成で,ちびPCII 上にアップロードした ぴったり1GB のファイルをダウンロードする.
項目 | 構成 |
---|---|
ちびPCII | 定格クロック667MHz,HDD:40GB(MK4018GAS),メモリ:512MB(PC133) |
OS | FreeBSD 4.8-RELEASE (Cyrix系な Eden 向け構成でカーネル再コンパイル済) |
Webサーバー | Apache 1.3.27 (mod_gzipはズルいのでもちろんDisable) |
ファイアウォール |
IPFWを使用(当研究所で紹介したスクリプト集のルールを使用) やっぱ普段の環境で調べたいしねぇ |
クライアント | Pentium 4, AthlonXP 等の十分速いマシンでIrvineを使用し,クライアント側の影響を極力出なくした. |
比較用サーバ |
IBM ThinkPad A20m CPU:Celeron500MHz, FSB:100MHz, メモリ:512MB(PC100)に増設済,NIC:Intel8255x, HDD:MK6021GASに換装済 OS と Webサーバー 等,ソフトウェア的なものは同じ |
戦歴 | 所要時間 | 速度 |
---|---|---|
1戦目 | 201[sec] | 42.7[Mbps] |
2戦目 | 202[sec] | 42.5[Mbps] |
3戦目 | 201[sec] | 42.7[Mbps] |
比較用サーバ | 93[sec] | 92.4[Mbps] |
んー,半分の 50Mbps もでなかったようです.スペックがほとんど同じなこのPCの実験結果とさほど変らないということなのか? ちなみにtopコマンドでダウンロード中のCPUアイドル率を見てみると6%くらいをさまよってました.(比較用サーバーでは30%くらい)
そんなに重いのか!? いゃ,きっと1GBもの巨大ファイルを読むためのディスクアクセスに足を引っ張られているんだ!! あるいは,Apache が遅いせいだ!! …と思いたいところですがやっぱり違うんだろうな,比較用サーバーもその意味では同じなんだし.
ここからはルーターとしての試験です.まずはNATもPPPoEも使わない単純なルーターとしてのスループットを測ります.
片方のLANポートにFTPサーバー,もう片方のLANポートにはFTPクライアントを繋ぎ1GBのファイルをダウンロードしてみます.もちろんFTPサーバーやクライアントが足を引っ張ってしまっては意味がありませんので,それらには十分に速いPCを使っています.
戦歴 | Realtek版 | Intel版 | ||
---|---|---|---|---|
所要時間 | 速度 | 所要時間 | 速度 | |
1戦目 | 103[sec] | 83.4[Mbps] | 100[sec] | 85.9[Mbps] |
2戦目 | 102[sec] | 84.2[Mbps] | 100[sec] | 85.9[Mbps] |
3戦目 | 102[sec] | 84.2[Mbps] | 100[sec] | 85.9[Mbps] |
平均 | 102[sec] | 83.9[Mbps] | 100[sec] | 85.9[Mbps] |
次にNATDを併用し,NAT(NAPT)ボックスとしての性能を測ります.これは,CATVやYahoo!BB等のDHCP環境下のインターネット接続サービスを想定しての試験です.
基本的に「その2」と同じですが,ちびPC IIは今度はNATDを動かしてNAT(NAPT)処理をさせます.
戦歴 | Realtek版 | Intel版 | ||
---|---|---|---|---|
所要時間 | 速度 | 所要時間 | 速度 | |
1戦目 | 99[sec] | 86.8[Mbps] | 87[sec] | 98.7[Mbps] |
2戦目 | 103[sec] | 83.4[Mbps] | 90[sec] | 95.4[Mbps] |
3戦目 | 102[sec] | 84.2[Mbps] | 90[sec] | 95.4[Mbps] |
平均 | 101[sec] | 84.8[Mbps] | 89[sec] | 96.5[Mbps] |
最後はPPPoE対応ルーターとしての性能評価です.これは,NTT東西のフレッツADSL,Bフレッツを想定しての試験です.
ちびPC IIはNATDの他にさらにユーザーPPP(IIJ-PPP)を動かしPPPoEクライアントとします.LANポートの両端にはFTPサーバーとクライアントを繋ぐわけですが,FTPサーバーにはPPPoE AC(つまりPPPoEサーバー)も兼ねさせます.FTPサーバー(兼PPPoE AC)のコンピューターには相当のCPU負荷がかかると予想されますが,そこはやはり十分に速いマシンを使うことで足を引っ張らないようにしています.
尚,MTUはフレッツの最適値である1448にしてあります.そして,試験に関するその他の条件は「その2」「その3」と同じです.
戦歴 | Realtek版 | Intel版 | ||
---|---|---|---|---|
所要時間 | 速度 | 所要時間 | 速度 | |
1戦目 | 283[sec] | 30.4[Mbps] | 284[sec] | 30.2[Mbps] |
2戦目 | 283[sec] | 30.4[Mbps] | 283[sec] | 30.4[Mbps] |
3戦目 | 281[sec] | 30.6[Mbps] | 284[sec] | 30.2[Mbps] |
平均 | 282[sec] | 30.4[Mbps] | 284[sec] | 30.3[Mbps] |
「その1」の結果を見た段階では,「動作クロックのより低いノートPCよりスループットが低いとは….」と残念に思っていましたが,「その2」以降のルーティング試験ではPPPoE以外の試験で好成績となりました.サーバーの処理ってルーティングよりもかなり負担になっているんですね.
しかし「その1」の結果では,動作クロックの低いはずの比較用サーバーは余裕で90Mbps以上もの好成績を出していたのはなぜでしょう.2つのサーバーの違いを考えてみるとNIC が カニ(Realtek 製)か Intel製 かの違いに思えてきました.試しに両者に GENERIC カーネルをコンパイル(make buildkernel)させてみたところ,ちびPC II は 15分20秒 であったのに対して,比較用サーバーは 15分34秒 でした.この結果を見るとまあ確かに 1クロックあたりの処理能力はCeleronの方が高そうですが,それでも ちびPC II の方が短時間で終わっているではありませんか.やはり原因はNICがRealtek製でCPU負荷が高くなりがちな設計になっているからなのでしょう.FreeBSDのRealtek製NIC用ドライバrl のマニュアルページ(英語)にも,ハードウェアに対するグチが書かれていました,
The RealTek data sheets are of especially poor qualityと….Intel版が手に入りましたので,サーバーに仕立ててダウンロードを行ってみましたが予想通り90Mbpsを超えるスループットを叩き出したました.(ただし今度はFTPサーバーにして行ったことにより単純に比較ができないのでここには載せていません….)
(意訳: Realtekのチップは極めて非効率な設計である)
もともとの CPU 負荷が小さい場合には Realtek と Intel の差がはっきり表われてスループットも大きく違うものの,もともとの CPU 負荷が大きい場合にはあまり変わらない.ということなのではないかと思っています.従ってppp(user-ppp)は相当に負荷の大きいアプリケーションなのだと思います.この予想が正しければ,カーネル実装でありuser-pppよりも負荷が小さいPPPoEクライアントと言われているmpdを使った場合にはRealtek版とIntel版で大きな差が出るはずです.近いうちにmpdを使っての試験も実施したいと思います.
ここで記した結果だけ見るとどうやら近頃お店に並んでいる高スループットを謳ったブロードバンドルーターには及ばないようです.とはいうものの十分実用的なスピードではあると思いますよね.ほら,最近…
なんかもう必死でしょ,最近のブロードバンドルーター.繋がればいいって思うんですけどね.ファンレスなんやしね.というCMもあることですし,それにサーバーにもなるんですからあまり気にしてはいけません.と言うより,スループットが最近のブロードバンドルータに及ばないという一面だけで選択肢から外してしまうにはあまりにも惜しい! 及ばないといっても十分実用の範囲内ですし(ADSL 等なら何の問題も無い),設定やソフト次第でルータとしての機能はそこらへんのブロードバンドルータには到底真似のできない豊富さになり,おまけにこれ一台でサーバーとしても使えるんですから.